少女の頃に夢見たいろと似ていて、
まるで少女みたいだ、なんて、ほんの少し前に成人したばかりなのだから、まだ少女と呼んでも差し支えはないのだろうけれど。それでもゆるり、高鳴る胸の調子はまるで、恋をしているみたいで。
そう、恋。わたしは、たったひとりの人をいとおしく思っている。いまは亡きお母様やお父様、城仕えたちに抱いているものとは種類の違うそれを。気付いたのはいつだったか、愛を教えてもらったあの日だった気もするし、もっともっとずっと前、彼女が生まれたその日だった気もしている。つまりは最初から、なんて話もあるけれど。
「エルサ!」
ほら、また、鼓動が跳ねる。いつになれば落ち着いてくれるのか、彼女といる間はきっと、治まることはないのだろうけれど。それはつまり私の命が続く限りずっとということで。
元気よく顔を覗かせたアナは、私の動揺に気付くことなく執務机へ一直線、背後に回って抱きすくめてくるものだから、言葉も発せずされるがまま。ああ、せめて髪を下ろしていたなら、真っ赤に染まった頬を見られずに済んだのに。休日でもない日中にそんなことはありえないのだけれど。
色をみとめた表情がいたずらに笑んでいく。
「ドキドキ、してる?」
確信に満ちた言葉に、ええそうよあなたに名前を呼ばれるだけであなたを思い起こすだけでこんなにも胸が騒がしいの、だなんて正直に言うのも癪で、ぷいと顔を逸らす。肯定してしまっていることくらいわかっている。
くすくす、洩れ聞こえる笑いにむうと頬をふくらませて。憎らしいほど愛らしいその顔をぐいとこちらに向けさせ、無理やりに奪った、やわらかに綻んだくちびるを。
離れてしばらく、ぽかんと口を開けていた妹の頬が、首元が、私と同じ色に染まっていく。ああ、さっきのアナもきっとこんな気持ちだったんだわ、恋心を抱かれているという確かな実感を得ていたんだわ。
逆転した形勢に、笑みを浮かべるのは私。
「ドキドキ、してる?」
つい最近聞いた問いにはただ、ばか、とだけ返されてしまった。
(つまりはあなたと同じいろ)
相手の行動にお互いどきどきしてるといい。
2015.11.20