涙に消えた言葉はもう知っていた。

 指先が落ちる、ただそれだけで、痛いほど反ったのどから音がこぼれた。砂糖をまぶした菓子よりも甘い甘いそれに、ともすれば吐き気さえ覚えてしまうのに、しっかり聞き止めたアナは嬉しそうに目を細める。  さわりと撫でるだけだった指に力を加えて、花芯を押し潰す、声がまた、跳ねて。 「ね、エルサ、痛くない?」 「んん、だいじょ、っ、ぶ、」  言葉を紡ぎ終える前にぬるり、指が侵入してくる。一体何度、こうして受け入れてきたのか、もう片手では数えられなくなった。それだというのにぞわぞわと近付いてくる、不快とは程遠い感覚にはまだ慣れない。  アナはよく尋ねてくる、痛くないか、気分は大丈夫かと。元々おしゃべりが好きではあるけれど、行為の最中は特に口数が増えているような気がした。話しかけられるたびに私も口を開いてしまうからどうしても声が洩れる、色にまみれたそれが。 「ね、エルサ、気持ちいい?」 「ぁ、…そんな、こ、と、」  そうしろと言うのなら声を発さずにいることもできた、だって私はいつだって自分を抑えてきたから。けれど私がただ音を転がすだけで妹が喜ぶというのなら、彼女もまた同じ想いを感じてくれるというのなら、私はいくらでも乱れられる、女王だということも忘れてはしたなく。  抜けるか抜けないかという浅い部分を撫でていたかと思いきやいきなり奥に進んできて、目の前が一瞬爆ぜる。エルサ、と名前を呼ばれてしまえば、アナ、と。吐息に紛れたそれを返すしかなかった。  我慢なんてできるはずがない、だって求められているから、甘い声を、音を、色におぼれた眸を。 「やぁ、…きもち、い…っ」  どうしようもなく吐き出した言葉に、薄氷色の眸が雫を湛えた、まるで水面みたいに。 「あたしもね、エルサ、気持ちいいよ、すごく」 「あな、あなぁ…」 「エルサの声だけで、想いだけで、こんなに」  ああ、また、だ。また、なにも考えられなくなっていく。たとえば血の繋がった姉妹なのに交わっていることだとか、たとえば女王であるはずの私が組み敷かれ声を上げさせられていることだとか。そのすべてが氷みたいにとかされてただ、目の前のそばかすの浮いた肩にしがみ付くしかなくなってしまう。細い身体を抱きしめて体温を分かち合うだけになっていく。それでしあわせだったから、それだけでしあわせと思えてしまえるから。  激しく揺り動かされ、ともすれば振り落とされてしまいそうな錯覚まで起こして必死に身体を寄せる。耳元で熱の混ざった吐息がこぼれる。重なった肌から鼓動が伝わる。 「──エルサ、」  そうして決まって最後に紡がれる五文字にいつだって、妹は雫を添えていた。 (私も返した、あいしてると、涙で濡らして)
 ハッサン(隠語)した結果。  2015.12.4