それはあなたも私も同じ。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
心配の言葉をかけられるのもこれで何度目だろう、覚えている限り、朝から数えて十三回目。昨日一昨日と遡ってしまえば倍にもそれ以上にもなってしまうからそこまでで止めておいた。
目の前で両指を重ね、寄せた眉にありありと心配の二文字を乗せた妹に微笑んでみせる、大丈夫だと、繰り返すのもこれで十三回目。
「高いところは平気よ。ノースマウンテンのお城に比べたら」
「高さの話をしてるんじゃないの、あたしは、」
「だとしたら。大丈夫かと問うべきはあなた自身に、じゃなくて?」
問いをそのままに返してみれば思った通り、ばつが悪そうに視線を落としたアナは見つめた指をくるくると回し始めた。その仕草がかわいらしくてつい、声を洩らしてしまえば、ふて腐れた表情が持ち上げられる、笑い事じゃないわ、だなんて言うみたいに。
いとおしさに任せて身体を抱きしめる。再びしゅんとうな垂れた彼女の腕が回ってくることはなくて。
「パレードなんて一瞬よ。終わったらすぐ、こうして抱きしめてあげるから」
「…ハグだけじゃ、足りないわよ」
「あら、じゃあなにが欲しいのかしら、寂しがり屋な王女様は」
おどけた風に尋ねれば、そ、と。羞恥からかわずかに染まった頬を上げた妹は、答えあぐねるように視線を彷徨わせて。なんでもいいわよ、と。付け足した言葉に安心したのかようやく薄氷色の眸を合わせてくれる。
「…ちゅー、が、ほしいな、って」
「─…そんなの、」
また落ちていこうとするあごを人差し指ですくい上げて、やわらかく色づいたくちびるに自身のそれを重ねる。触れ合いは一瞬、けれどその瞬間だけで十分だったようで、陽気な雪だるまの鼻もかくやと首筋まで色を移したアナはぱくぱくと、言葉にならない悲鳴を洩らすばかり。
どうしてこの妹はすべてがかわいらしいのだろう、すべてがいとおしいと思えてしまうのだろう。寂しいと、ただそれだけも言えずそれでも触れ合いを求める姿のなんてかわいいこと。
ぎゅうと力の限り抱きしめればさすがに、苦しいよと、少しばかり気恥ずかしそうな声が胸元から直接伝わってくる。それでもこの体温を忘れてしまわないように。名残惜しさはここへ置いていこう。
「ああ、アナ、」
(やっぱり来年は同じフロートにしましょうね、だってこんなにも寂しいのだもの)
フロファン初日の姉妹。
2016.1.13