だってお姉ちゃんですもの。
今夜こそ。決意を固め立ち塞がった私を妹が不思議そうに見上げてくるけれど気にしない、今日は下剋上の第一歩となるのだから。
始まりはいつだっただろう、ついこの間だった気も、氷をとかしたあの日だった気も、ともすれば妹が生まれたあの瞬間だった気もしている。肩が触れ合ったことをきっかけに指が絡んで、くちびるが重なって。身体を交えたのは自然だった。
そうして加速度的に距離を縮めていった私たちは毎晩のようにお互いを求めあっていた。長年想い続けていたアナと心身ともに結ばれたのはうれしい、うれしいのだけれど、一つ挙げるのならば想像と違っていたということ。初めては姉である私がリードすべきだと、そう意気込んでいたはずなのに、気付けば組み敷かれ、それからというものいつも下から妹の顔を見つめる立場になってしまっていた。
このままではいけない、姉として、女王として、ちゃんと引っ張っていけるのだというところを見せなければ。
くるり、振り返れば、薄氷色の眸がまたたきを送ってくる。
「──アナ、」
そっと身を屈め、下ろしたままの黄金色の髪を耳にかけ名前を落とす。甘さは十分伝わったようで、耳たぶがみるみる染まっていく。掴みはクリアだ。アナの吐息がこぼれたのを合図に両足を持ち上げ、やさしくベッドに乗せる。続いてベッドに上り、身を横たえる妹に覆い被さった。
期待に濡れた眸に胸がきゅ、と締め付けられていく、その感覚さえいとおしい。この瞬間を、この光景をどれだけ待ち望んでいたことか。何度も挫かれたけれどようやく、達成することができるのだ。
うれしさに手が震えてしまわないよう注意を払いつつ寝間着に伸ばす、その指をふと、取られた。首元に向けていた視線を持ち上げれば、それまで潤んでいたはずの眸が悪戯に細められていて、
「でもやっぱり、だめ」
くるり、重力を感じたのは一瞬、気付けば背中がやわらかなシーツに包まれていた。
見慣れた景色におかしいわと首を傾げる暇もなく、くちびるにぬくもりが触れる。小鳥のようなついばみはすぐに終わり、食べられるみたいに性急に求められた。突然のことに対応しきれず、侵入してくる舌を拒むことができない。相手の思うようにそれが弄ばれ、呼吸さえも奪われていく。押し返そうにも手首を捕らわれているものだから抵抗することさえできなくて。
思考を手離しそうになったところでぬくもりが消えて、代わりに酸素がもたらされる。必死で息を吸い込む私に向けてきたのは、夜にだけ見せるそれ。
「余裕ないエルサを見る方が好きみたいなの、あたし」
(そうしてくちびるは今日も下剋上失敗を告げたのだった)
下剋上を目論むお姉ちゃん。
2016.1.16