わたしとしては、公務で疲れきっている夫を少しでも癒したかっただけなのに。
「なんだイデュナ、その格好は! 私が変な気を起こしたらどうするつもりだ!」
その格好はと言われても、息抜きにダンスでもとドレスをまとってきただけなのに、その言い草。
果てには頭を抱え、だめだアグナル耐えろまだ仕事が残っているんだなどと呟き始める始末。
なんだかよくわからないけれど余計心労を増やしてしまったようで、落ち込んだままその場を後にしゲルダにこぼしてみても、ため息をつかれただけで慰めの言葉さえない。
「あなた方は…、惚気話も大概にしてくださいませ」
これのどこが惚気ていると言うのだろうか。ゲルダって意地悪なのね。
(惚気と気付くのは少し後のお話)
2016.11.7
もしゃもしゃと頬張っている姿がまるでリスみたい、って言ったら、果たしてこの子は怒るのか、それとも喜ぶのか。
「このハンバーグおいしいねぇ」
ポジティブなこの子のことだからきっと、ふくらんだ頬をそのままにふにゃあって笑うんだろうけど。
もぐもぐとゆっくり咀嚼、目尻をこれでもかと下げ、少しずつのどの奥に滑らせていく。まるでこの世の春を全部詰め込んだみたいにしあわせそうな表情で食べるものだから、まだ一つも口にしていないあたしまでおなかいっぱいになりそう。
「ほんとにおいしそうに食べるねぇ」
思ったままの感想を伝えつつ、彼女の頬に残されたソースを拭って口に含めば、しばらく呆けていた少女がやがて真っ赤に染まっていく。
口いっぱいに食べることよりも、こっちの方が恥ずかしいのね、一つ発見。
(おいしく頬張る子はすきよ)
2016.11.7
些細なことであったはずなのに。
「エルサのばか! きらい!」
きらい、きらい、きらい? その言葉ばかりがアナの声で再生される。
お姉ちゃんのことが、きらい、って。それはどういう意味なんだろう。もう一緒にごはんを食べてくれないのか、はたまたもう雪合戦をしないのか、あるいは同じベッドで眠ってくれないのか、それともその全部なのか。
ああだめ、考えただけで涙が出そう。
「えっ、あ、エルサ、大丈夫だからきらいになるわけがないから!」
慌てたアナがぎゅっと抱きしめてきてようやく、心が落ち付く。
そうよね、アナが私を嫌いになるはずないもの、分かりきったことだわ。
「じゃあ、今夜は私があなたを抱いてもいいわね」
先ほどと同じ内容を呟けば、つと距離を置かれ。
またきらいって言われそうね、そんな予感に再び、涙腺がゆるんだ。
(だってあなたに好きでいてもらえない私なんて、)
2016.11.7
「大丈夫」
それは大丈夫じゃなくなった合図。
「心配しないで」
それは隠し事をしている時の常套句。
たとえばあの日のあたしであれば気付くことのなかったそれが、いまは痛いほど感じることができて。
離れていこうとするその手を掴む。怯えたように見つめてきた姉に、精一杯の笑顔を。
「もう、大丈夫だよ、エルサ」
あたしがいることを、思い出して。
(ハートリアライズ)
2016.11.14
手を引いてくれるのはいつだって君だった。背中を押してくれるのはいつだって君だけだった。
わたしなら、わたしたちならどこへだって行けるんだと、そんな夢を見させてくれて。
握り返したわたしに、君は笑う、きらきら輝くそれで。
「ここがハジマリだよ!」
(H-A-J-I-M-A-R-I-U-T-A-!!)
2016.11.14
幼いふたりが交わした約束を、果たしてあなたは覚えているのでしょうか。永遠を誓ったあの日のあたしたちを、あなたは忘れていないでしょうか。
「エルサ、」
すっかり閉ざされてしまった扉に手を当て、いとおしいその名前を口にする。
あなたがどうか、同じ想いでありますようにと。
「──すき、よ」
あいしてるを、こめて。
(指切り)
2016.11.14
あなたを恨んだ日もありました。どうしてたった一つの想いを捧げた人があなたなのかと、どうして愛してやまない相手があなただったのかと自問した日もありました。
けれどいまは、そのなに一つだって後悔はしていなくて。
「そろそろ行こうか、イデュナ」
「──はい」
今日は、わたしとあなたのはじまりの日。
(探求Dreaming)
2016.11.14
腹に走った鈍い衝撃に意識が引き戻される。
重い視線を持ち上げれば、暗闇の中でただ一つ、緑の眸だけが、侮蔑の色を持って見下ろしてきていた。
「やだ、そんな汚い顔で見ないでちょうだい」
そう言いながらも、仕込み杖の先端で顎を捉えてくる。
もう流せる血も残っていないだろうに、自身の腹や足からは相変わらず血液が絶え間なくあふれてきている。
「まだよ。あなたには、ヨセフカが味わった以上の苦しみをあげるんだから」
一体いつまでこの責め苦が続くのか、それは彼女だけが知っていそうだ。
(タイトルなんて自分で考えなさいな)
2016.11.14
どうせ誰にでも言うんでしょう、と拗ねた調子であなたは言う。
いつになったら気付いてくれるんだろう、こんなにもいとおしく想うのはあなただけだと、あなたしかいらないのだということを。
あなたがふくれてしまうたび、何度も、何度だって、伝えましょう。私がどれだけ想いを向けているのか、私がどれだけ、
「あなただけよ」
あなたを、あいしているのかを。
(ラストバージン)
2016.11.14
「今日も大好きだよー!」
「もう、またそんなこと言って」
首元に縋り付けば、苦笑気味の表情を返される。
毎日言い続けているからか、信じていないみたいだけど、毎日伝えたいんだから仕方がない。
だからわたしはいつも、ありったけの想いをこめて。
「あいしてるよ、いつだって!」
(愛してるばんざーい!)
2016.11.14