それはいわゆる乙女心。
傍から見ても明らかなほど頬をふくらませた彼女に、またかと苦笑を浮かべるのも何度目か。
「今日はなにがご不満なんだい、お姫様」
「その呼び方がすでに気に入りませんわ」
「ひどい言われ様だな」
自分で考えてくださいまし、などと毎回そっぽを向かれるものの、まるで見当つかないのはいつものこと。焦れた彼女が結局仕方ないですわねと、拗ねた原因を教えてくれるというのが常の流れで。
今回も一応は、あごに手を当て考えている風を装ってみせた。
今日のリクルーティングの相方は、赤のよく似合うファージャだった。成功に喜ぶスキャターを従え待機場所に戻ってみれば、遠目から見ていたのであろうヴェールがふくれっ面をこちらに向けていて。ほな先に戻っとるわ、などと独特の訛りとともに去っていったものだから、ここにふたり残されてしまったというわけだ。
だめだ、まったく思いつかないし、そろそろヴェールの視線が痛い。
耐えかねて視線を向ければ、呆れたようにため息をつかれた。
「…ファージャさんと一緒でしたわよね、さっき」
「ああ、共にいたが、それがなにか」
「ですから! その、腕を、取っていらしたから」
「腕、とは、これのことか」
語尾を上げるとともにヴェールの腕を取り、自身のそれに絡める。言われた通りたしかにこうして帰り際、ファージャをエスコートしていたが、それがなにか問題なのだろうか。
顔を上げてみれば、ぶわり、ちょうど彼女の顔が紅色に染まったところで。
「ああ、もしかして妬いていたのか」
「…っ、妬いてなんて、」
腹に勢いよく叩きこまれようとした拳を難なく掴み、指を開かせる。
以前であれば、予測できない彼女の行動にまんまとやられていた私だが、今年はそう易々と丸めこまれはしない。この一年間でようやくわかったのだから、彼女のことが、そうして私自身の想いが。
眸を丸める彼女の指を絡め取り、にやり、意地悪く笑ってみせる。
「好き、なんだろ、私のこと」
「っ、調子に乗って…!」
瞬間、膝に鋭い痛みが走り思わず屈みこむ。察するにどうやら、ヒールで思いきり蹴られたようだ。訂正、彼女の行動はやはり、予測がつかない。
拘束を逃れた彼女がうずくまる私を見下ろし、その痛みように少しばかり表情を落として。
「─…好き、だなんて、簡単に口にしないでください」
そうして彼女は、痛みにいまだ悶える私を残し踵を返してしまった。
ひとりきりになった空間で思わず、うめき声を一つ。
「やっぱりわからないよ、ヴェール、君のことは」
(けれどだからこそ、もっと知りたいと思うわけで)
一年経ってスキンシップ過多になってるといい。
2016.9.19