そうして二度と失ってしまえたらと、
一言で表すなら、スキンシップ過多だった。
「ちょっと」
「なんだいヴェール」
「離してくださいませんこと」
「今日も太陽がまぶしいな。私には負けるが」
「話を逸らすのやめてくださる?」
頭の上に彼女のあごが触れているから振り返ることはできないけれどきっと、少し上に視線を向けて眸を細めているに違いない。この時間であれば、窓から直接太陽を見ることはできないはずなのに、なんて白々しい。いっそ勢いよく立ち上がって舌でも噛ませようかとも思うけれど、彼女のことだ、わたくしなんて容易く抑え込んでしまうのだろう。
後ろから回ってきている両腕がぎゅ、と。引き寄せるように力がこめられる。もう抵抗するのも面倒で、されるがまま頭を寄せた。やわらかな感触が後頭部に当たりまた、苛立ちが募る。身長はわたくしより低いくせに身体つきは良いだなんて、一体どういうことなんですの。
いいえ、いまでは些細なこと。それよりもどうして、朝から抱きしめられたままなのか。
思えば目が覚めた瞬間から、いつの間にかベッドに潜り込んできていた彼女に抱き留められ、起き上がる時も、こうして椅子に腰かけた時だって、一瞬たりとも解放してはくれない。理由を尋ねてみても、先ほどのようにはぐらかされるばかり。
わたくしとしては、一刻も早く離れてしまいたいのに。
だってこんなにも、胸が苦しい。この方と普通に過ごせていることが。朝日を浴びるよりも先におはようと微笑まれたことが、衣服よりも心地良い体温に触れていられることが、言葉を紡げば返ってくる安心感が、こんなにも。
「えっ、あ、ヴェール!?」
涙は流さないと、決めていたのに。
突然ぼろぼろと雫をあふれさせたわたくしに動揺したのか、ようやく腕を解いた彼女がしゃがみ込み顔を覗いてくる。いつになく余裕のない、不安そうな表情が霞む。願っていたことのはずなのに、いざ離れると余計寂しさが募った。
「どうしたんだヴェール」
「だっ、て、ホックさん、が、はなして、くれない、から、」
「そ、そんなに嫌だったのか」
いつだって自信をあふれさせているくせにこんな時ばかり、表情を落とすのだ、この人は。嫌っているはずがないのに、離れたいわけがないのに、わたくしの気持ちなんて少しもわかってはくれなくて。
だからこそもう、好きでいたくはないのに、
「あなたの、せい、ですわ」
いっそ心が止まってしまえばいいのに。
(これ以上、好きにならせないでください)
あと二日、
2016.10.30