絡まぬ指の行方
くるくる、と指に桃色の髪を巻きつける。綺麗な曲線を描いたそれは、自身の指に見事に絡み付いてきた。
指ごと口元へ寄せ、口付けを一つ。残るはずのない香りを舐め取るように、舌で唇をなぞってみた。
「あの。兄さま」
「なに」
「これはなんの」
「真似、じゃないよ。本気。…それとも、」
僕がこんなことしたら、可笑しいかな
唇を笑みの形に歪め、口にした問いの答えはついに聞くことは叶わなかった。
彼女の形の良いそれを充分に味わうように食み、奥まで侵入する。噛み締めていた歯を抉じ開け、噛み千切られないために人差し指を犠牲にした。感じていた指の痛みは徐々に弱まり、代わりに小さな身体が軽く跳ねる。咽喉が下がり、無理矢理交わした唾液を飲み込んでいく。
ようやく唇を離せば、途端に咳き込むルカ。人間に忠実に作られたアンドロイドはこんな時に不便なのだと、妙に冷静な頭が思ったのはそんなこと。
「どうしたの。苦しかった?」
「兄、さま。悪い冗談は、やめて、ください」
「冗談、か」
呼吸もままならないまま、しかし今までに見たことがないほどに冷たい薄氷色の瞳で睨みつけてくる彼女があまりにも、あまりにも滑稽に見えて、思わず笑いが込み上げた。
いや、滑稽だったのはむしろ自分の方、だったのかもしれない。
「ねえ、ルカ」
いつになれば、本気だって信じてくれるんだい
「わたしは、兄さまをそのような対象として見ていません」
「じゃあ、見てよ」
もっと壊したいと、心から願った。僕を見据えた蒼い瞳も、感情を抑えた表情も、華奢な身体も、もっともっと。僕の前でだけ壊れてしまえと、願った。
頬を叩かれたが、そんな痛みなど物ともせず、宙に浮いたままの手首を掴み、壁に縫い止める。絶望に染まったそれで真正面から見つめてくる薄氷色を間近に捉え、耳元に先ほどまで繋がっていた唇を寄せた。
「ねえ、ルカ」
──僕の前で、壊れてよ
絡めていたはずの桃色は、すでに解けていた。
(桃色は汚れたくらいがちょうどいい)
病んでるカイトが書きたかっただけ。
2010.11.25